サンクコストは、日常生活での意思決定に影響を与え、その心理効果はマーケティングの場面でも活用されるほどです。ビジネスシーンでのサンクコスト効果の活用法と自分自身の意思決定の場で意識したい注意点について解説します。
サンクコストとは
サンクコストとは埋没費用と呼ばれるもので、過去に支払ってしまい、取り戻すことができない費用のことです。サンクコストは認知バイアスとして、将来に関する意思決定をする際に人の心理に影響を及ぼすことがあります。
ビジネスの場面でもサンクコストの効果を使うことができますが、反対に自分の経営判断を狂わされることもあるため注意が必要です。
埋没費用という意味
サンクコストは日本語で埋没費用といいます。埋没費用とは、経済行為のために支払った費用のうち、今から該当する経営行為を止めたとしても回収できない費用のことです。
たとえば事業のために使った人件費や光熱費などは、事業から撤退しても戻ってくるものではありません。また、金銭的な投資だけでなく、かけた時間や手間などもサンクコストとして意識されやすくなります。
サンクコストが意思決定に与える影響をサンクコスト効果という
人は過去に支払ったサンクコストを意識するあまり、将来について正しく意思決定できなくなることがあります。たとえば、すでに支払った金額を無駄にするような気がしてムダなものを手放せなくなる状態です。 このようにサンクコストが人の意思決定に与える影響のことをサンクコスト効果といいます。
サンクコスト効果が働くことで、今までに失った費用や手間などを惜しみ、損失が出続けるにもかかわらず止められない状態になるのです。
もったいないの精神がもたらす心理効果
サンクコスト効果の根底にあるのは 「もったいない」の精神です。すでに使ってしまい、回収できないコストを惜しむ気持ちが他人の行動に影響を及ぼします。サンクコストに捉われてしまうと、続ける方がもったいないということを冷静に判断できません。
もったいないの精神は日本人ならば美徳とされるものですが、サンクコストでは裏目に出てしまい、将来にわたって損失を出し続ける原因になります。
サンクコスト効果とコンコルド効果は同じ意味
サンクコスト効果と似た言葉にコンコルド効果があります。2つの言葉は同じ意味を持つもので、コンコルド効果は実際にあったビジネスの事例が元になり作られました。コンコルド効果は、コンコルドの誤謬などとも呼ばれています。
コンコルド効果の元になったのは、イギリスとフランス政府共同の旅客機開発計画です。開発の途中で赤字になることが分かっていたにもかかわらず、投資額が膨れ上がったため途中で開発を辞めることができませんでした。
サンクコスト効果はビジネスシーンに活用できる
サンクコスト効果は、消費者の行動に当てはめることでマーケティングの手法にも活用できます。サンクコストを「もったいない」と思う人の気持ちをコントロールし、購買行動を促す手法です。
消費者に対してサンクコストを出させる働きかけは必要ですが、サンクコストを払った消費者はより商品やサービスに執着するようになります。今までにもサンクコスト効果を用いたマーケティングは数多く使われてきました。
サンクコストの影響で経営判断を誤ることも
サンクコスト効果はマーケティングの手法としてビジネスで生きることもありますが、反対に経営判断や投資判断を歪める原因となることもあります。先に述べたコンコルドの開発も典型的事例です。
過去の支出にこだわるあまり、成果が出ないと分かっていながら不採算事業から撤退できずにいると、いずれ大きな損失を被ります。経営者やプロジェクト責任者がサンクコストの影響を受けることは経営上の大きなリスクです。
サンクコスト効果は日常生活に影響
サンクコスト効果は日常的に発生し、気づかぬうちに人々の生活にさまざまな影響を与えています。 私たちの生活の中で生まれているサンクコスト効果によるリスクを知っておきましょう。
「せっかくお金を出して買ったのだから」と捨てられない持ち物
一度しか袖を通しておらず今後も着る予定がない服、デザインは気に入ったけど重すぎて持ちにくいバッグなどはありませんか? 身の回りには、購入したけど使用していない衣類や日用品など、使わないのに捨てられないものが意外と多くあるものです。
特にブランド物や貴金属など、比較的購入金額が高額なものは、手放そうとしてもなぜか踏ん切りがつかず、長く持ち続けてしまいます。なかなか手に入らず、苦労して買うことができた限定品やプレミア品などもかかった手間や苦労によって手放しにくくなるでしょう。
使う予定はなく、持っていても邪魔なだけであるにもかかわらず、なぜか手放せない気持ちこそが、サンクコスト効果によるものです。かかった費用や購入までの苦労が無駄になる気がして、必要がないのに手放すことができません。
「ここまで攻略したのだから」とやめられないゲーム
一度始めたゲームでも、サンクコスト効果が発生することがあります。スマホゲームなどをやっていて、飽きたり忙しくなったりしたのに、なかなか止める気になれないのもサンクコスト効果のせいかもしれません。
特に課金をしたゲームにおいて、強くサンクコスト効果は働きます。せっかくお金をかけて攻略したものだからと、かけた金額の分だけ執着心が沸いてくるのです。
「頑張って入社したのだから」と退職できないブラック企業
サンクコストで「もったいない」と感じるのは、金銭的に負担したものだけではありません。就職活動をがんばって入社した会社などでもサンクコストは影響を及ぼします。
たとえば入社した会社が待遇の悪いブラック企業だったら、冷静に考えれば速やかに退職や転職を考えるのが妥当です。しかし、一生懸命に就職活動して入った会社の場合、就職活動にかけた時間や努力が無駄になる気がして、なかなか退職できません。
勤務を続けていても良いことがないと認識しても、今までにかけた時間や努力が惜しくて退職をためらってしまいます。
サンクコスト効果のマーケティングでの活用法
サンクコスト効果は人々の日常に深く浸透しており、知らず知らずのうちに自分も影響を受けていることがあります。しかしサンクコスト効果はうまく活用することで、他者を自分の思うがままに動かし、購買意欲や消費行動を促すことも可能です。
よくあるマーケティング手法の中からサンクコスト効果を使ったものを紹介します。どのように活用されているか知ることで、新しいマーケティングのヒントにしてください。
継続利用による会員のランク付け
サンクコスト効果を使ったマーケティング手法には、 会員のランク付けがあります。継続利用することで会員のランクが上がるというよくある仕組みです。会員のランク付けは、途中で止めると今まで利用した期間が無駄になる気がして止められなくなるというサンクコスト効果が使われた手法となります。
効果を活かすためには、一度退会すると次に入会した時は再び最下位のランクからスタートするように設定しておくと良いでしょう。またスタート時は、ランクアップの難易度を下げておくのが効果的です。どんどんランクが上がることで、上がったランクを失いたくないと思わせられます。
1回ごとにパーツが届く定期購読の雑誌
組み立てパーツが付いた定期購読の雑誌もサンクコスト効果が使われています。雑誌とともに届いたパーツを組み合わせることで大きな作品ができるようになっており、途中で購読を止めると作品が完成しません。そのため、完成前に雑誌に飽きたとしても、「もう少しで完成するから」と続けてしまいます。
ただし定期購読は、初回の雑誌を購入してもらわないと意味がありません。この手法を活用した商品には購買を促す手法として、初回のみ購入価格を低く設定しておく、特別にパーツが多く入っているといった工夫もされています。
無料お試し期間付きサブスクリプション
無料お試し期間付きサブスクリプションサービスも、サンクコスト効果が使われています。無料期間に経験したサービスを失いたくないと思わせることで、有料となっても継続してもらう手法です。
無料お試しだけを使うつもりで始めても、手続きの手間を惜しんで継続してもらえることがあります。また継続の可能性を高めるためには、無料期間中もポイントが付与される、次回の割引券を発行しておくなどの工夫も必要です。
自分がサンクコスト効果にハマらないための対策
サンクコストは向き合い方次第で事業に役立てることもできますが、反対に自分の判断を狂わせる原因となることもあります。ビジネスで成功したい人は、自分がサンクコスト効果の罠にはまらないための対策を知っておきましょう。
過去に捉われないゼロベース思考を貫く
サンクコスト効果の影響を受けずに冷静な判断をするためには、過去に捉われずゼロベースで物事を考えることが大切です。今までかけてきた費用や手間への思いも一旦切り離して、 ベースがない状態で考えましょう。
損失はなかったことにはできませんが、将来のことを考えるための判断材料からは省くことはできます。今までとこれからを割り切って考えることで、過去の損失に縛られず最善の判断ができるでしょう。
客観的な意見を取り入れる
サンクコスト効果の影響を受けないためには、客観的な意見を取り入れることも大切です。第三者から見た冷静な意見を聞くことで、現実を見つめられるでしょう。
データを基にした論理的な判断をする
サンクコスト効果の影響を避けて判断するためには、データを元に論理的思考を貫くことも大切です。数字や金額など明らかなデータを見ることで、現実を突きつけられ、冷静に判断できるようになるでしょう。
事業の存続を検討する際には、損益計算や将来のキャッシュフローを表にまとめるのが効果的です。
機会コストを重視して判断する
機会コストとはある行動を選択することで失われる利益のことを指す言葉です。別の言い方をすれば、別の選択肢を選んでいれば得られたであろう利益とも言えます。
不採算事業をいつまでも続けることは、別のうまく行くであろう機会を損失していることと同じ状態です。今までのサンクコストではなく今後の機会損失に意識を向けることで、正しい判断がしやすくなります。
自分がサンクコストの影響を受けていることを自覚する
自分がサンクコストの影響を受けていることを自覚することも、影響を回避するために大切になります。人は誰もが認知バイアスの影響を受けることがあるものです。しかし自分が影響を受けているかも知れないと思うことで、自らを客観視してサンクコスト効果の影響から逃れやすくなります。
自分では正しい判断ができないと思うだけでも、第三者の意見を取り入れるなど、対策しやすくなるでしょう。
まとめ
サンクコストは過去に発生した回収不可能なコストです。サンクコストには金銭的負担もありますが、手間や時間なども含まれます。 サンクコスト効果は認知バイアスの一種であり、回収不可能なコストに惑わされる心理効果です。
サンクコスト効果は人々の日常生活に浸透しており、マーケティングの手法としても取り入れられています。ただし自分も影響を受け、正しい経営判断ができないこともあるため注意しましょう。ビジネスを成功させるためには、サンクコスト効果を理解して賢く付き合っていくことが大切となります。
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